美しいまでに細い青いハイヒールの踵、しっかり締まった青いコルセットの紐…踏み付けられる男たちは幸福であろう。僕が、恵に会ったのは一昨年の七月であった。白と黒の衣装に身を包む彼女の姿が素晴らしく彼女のうなじにかかる首輪や、小さな手のひらにまるで自分の娘のような可愛らしさを感じたものだ。第一章 黒いシュミーズの女20歳になる娘は洋裁学校に通う学生だが、近頃学校の近くのお店で働いている男友達ができたようだ。シャンソンがかかるその店は巴里の街角…を思い起こさせる通りを地下に下りたところにある洒落た扉の店である。探るつもりでも、挨拶をするつもりでもないが、扉を開けるとすぐに支配人らしき男性が現れ、一人で来たことを伝えると私は、カウンターバーの前を通り鏡の奥の部屋に通された。青い部屋のテーブルには銀色に光るテーブルウェアが置かれ鏡の裏から見るサロンには何人かの黒服の姿の若者が見え、おそらく、その中の一人が私の娘のボーイフレンドなのであろう。『荒川さんという方はおられますか?!』娘のブログに書かれていた名前は、荒川 進であった。私が、黒く濃いヒゲを生やした1人の黒服の青年に尋ねると。その黒服の青年は急にかしこまったように『はい、少々お待ちください。』と言って礼儀正しくその場を離れた。部屋には、ルノアールに似た素敵な少女を描いた絵がモダンな額に飾られ、幾つかの置物も高級な雰囲気を漂わせ、薔薇の香りだろうか、心地よい香りも趣味の良さを感じさせ、客がまた通いたくなるような気持ちにさせる落ち着いた部屋あった。私が、言葉を失ったのは『荒川でございますが?!』と言って現れた男が、先ほど笑顔で丁重に部屋に通してくれた支配人らしき、年の頃も60に近い初老の男であった時だ。20歳の娘の彼氏は、40も年の違う店の支配人であった。自分の娘が30以上も年の違う父親のような世代の男と交際することをあなたはどう思うだろうか�まして、体の関係を想像すると大切な娘を同世代の男に取られたようにでも思うだろうか?!いかにせよ、相手の男がどういった男であるかが肝心である。